視能訓練士
- 抗がん薬による目の副作用を緩和する -
当院はがん診療連携拠点病院として、がん診療に力を注いでおります。がん診療では癌の種類や病態よって様々な抗がん薬を用いて治療が行われます。この抗がん薬というものは、経口投与や点滴で投与されます。抗がん薬によっては、がん細胞だけでなく、他の健康な細胞にも影響(副作用)が生じることが知られております。下記の表1は当院で使用している抗がん薬の種類とその添付文書に記載されている眼の副作用を表にしています。発生頻度は低いですが、どの抗がん薬でも眼に症状が出ることが記載されています。
私たち眼科では、このような眼に起こる副作用を緩和することに努めております。
商品名 | 薬剤名(有効成分) | 眼の副作用 | ||
---|---|---|---|---|
エスワンⓇ配合OD錠 | テガフール ギメラシル オテラシルカリウム |
0.1%~5%未満 | 頻度不明 | |
流涙、結膜炎、角膜炎、角膜びらん、眼痛、視力低下、乾燥感 | 角膜潰瘍、角膜混濁、輪部幹細胞欠乏 | |||
ゼローダⓇ錠300 | カペシタビン | 10%未満 | 頻度不明 | |
涙液増加、霧視 | Stevens-Johnson症候群 | |||
ロンサーフⓇ配合錠 | トリフルリジン チピラシル塩酸塩 |
5%未満 | ||
結膜炎 | ||||
アバスチンⓇ点滴静注用 | ベバシズマブ | 1%未満 | ||
流涙増加、霧視、結膜炎 | ||||
エルプラットⓇ点滴静注液 | オキサリプラチン | 0.1%未満 | 頻度不明 | |
結膜炎、眼球周囲痛、眼の掻痒感、眼乾燥、眼瞼下垂、視神経炎(0.01%)、流涙(0.1%~5%未満) | 涙器の障害、涙道閉塞、白内障、視野障害 | |||
5FU注 | フルオロウラシル | 頻度不明 | ||
流涙、結膜炎 | ||||
トポテシン点滴静注 | イリノテカン塩酸塩水和物 | 頻度不明 | ||
流涙 | ||||
ドセタキセル点滴静注 | ドキタキセル | 頻度不明 | ||
羞明、視力異常、視覚障害、流涙、結膜炎、涙道閉鎖、黄斑浮腫 | ||||
パージェタⓇ点滴静注 | ペルツズマブ | 2~5% | 2% | |
流涙増加 | 眼乾燥、結膜炎、霧視、視力障害、視力低下 | |||
ハーセプチンⓇ注射用 | トラスツズマブ | 2%未満 (HER2過剰発現が確認された乳癌) |
20%未満 (HER2陽性の根治切除不能な進行・再発の唾液腺癌) |
|
流涙増加、結膜炎、視力障害 | 流涙増加 | |||
テセントリクⓇ点滴静注 | アテゾリズマブ | 1%未満 | ||
結膜炎、霧視、眼乾燥、流涙増加 | ||||
ベバシズマブBS点滴静注 | ベバシズマブ | 1%未満 | 頻度不明 | |
結膜炎、流涙増加、霧視 | 眼障害 | |||
レボホリナート点滴静注 | レボホリナートカルシウム水和物 | 頻度不明 | ||
流涙、眼充血、眼脂、結膜炎 | ||||
オプジーボⓇ点滴静注 | ニボルマブ | 単独投与 | ||
1%未満 | 0.30% | 頻度不明 | ||
乾燥感、硝子体浮遊物、流涙増加、霧視、視力障害、複視、角膜障害 | ぶどう膜炎 | フォークト、小柳、原田病 | ||
併用投与 | ||||
1~5%未満 | 1%未満 | |||
眼乾燥 | 霧視、視力障害、硝子体浮遊物、複視、角膜障害、上強膜炎、流涙増加、フォークト、小柳、原田病 | |||
ベクティビックスⓇ点滴静注 | パニツムマブ | 100mg | ||
0.5%以上10%未満 | 0.5%未満 | 頻度不明 | ||
結膜炎 | 睫毛の成長、眼乾燥、眼充血、流涙増加、眼そう痒感 | 眼の炎症、眼瞼炎、眼感染、眼瞼感染、角膜炎、潰瘍性角膜炎 | ||
400mg | ||||
0.5%以上10%未満 | 0.5%未満 | 頻度不明 | ||
結膜炎 | 眼瞼炎、角膜炎、潰瘍性角膜炎、霧視 | 眼痛 | ||
トラスツズマブBS | トラスツズマブ | 2%以上 | 2%未満 | 頻度不明 |
流涙増加 | 結膜炎 | 霧視、視力障害 |
抗がん薬の添付文書から抜粋
- 「エスワンⓇ配合OD錠」の副作用 -
眼科領域でしばしば目にすることがある副作用をご紹介します。胃癌や大腸癌の治療薬で、国内でもよく使用されている「エスワンⓇ配合OD錠」(以下S-1とする)の副作用で、角膜上皮障害と涙道障害が起こることが知られております。
下記にそれぞれの起こりうる症状をまとめています。
角膜上皮障害の症状
- コロコロとした異物感や痛み
- 霧視や視力低下
- まぶしさ
- 流涙
- めやに
涙道障害の症状
- 流涙
- 涙でにじむ
- 視力低下
- 常時目を拭いたくなる
下記写真は角膜をフルオレセインで染色し、ブルーフィルターを通して撮影することで、角膜上皮の傷を分かりやすくしたものです。左の写真1は健常者の角膜で正常な状態で、傷がないので何も染まってません。対して、右の写真2はS-1内服患者様の角膜です。
角膜中央から上方にかけて、広範囲に角膜上皮が障害されていることが確認出来ます。
写真1(健常者の角膜)
写真2(S-1 内服薬者の角膜)
- 実際の診察の流れ -
私たち眼科では2021年から、従来のS-1の眼副作用の治療だけでなく、S-1の眼副作用の予防または軽減を目的として、眼科医と視能訓練士がS-1内服患者様に眼副作用の情報提供を行い、さらに副作用を予防するため涙液内のS-1の濃度を下げる効果をねらい、洗眼液の頻回使用を勧めております。
実際には、まずS-1投与前の角膜や涙道の状態を診させていただいた後、S-1投与開始とともに事前購入した洗眼液を頻回に使用し、S-1の角膜と涙道への影響が少なくなるようにします。また既にS-1投与を開始されている患者様も同様に受診後から洗眼液を使用していただいております。
しかしながら、それでも角膜が障害された場合は、点眼薬で対処療法を行っております。
さらに洗眼液の使用後、眼周囲を濡れたままにしておきますと、S-1により眼周囲の皮膚に障害が起こる可能性がありますので、必ず洗眼後は眼周囲も綺麗に洗い、水分を拭き取っていただくように説明しております。
またS-1以外の抗がん薬で眼症状が出た場合も、同様に対処療法を行っております。
このように私たち眼科では、少しでもS-1の副作用を予防または軽減することで、眼副作用に対する不安を和らげ、患者様が癌治療に専念できるように努めております。
-抗がん剤と副作用 当科での内訳-
当科を実際に受診された患者様に生じた抗がん薬による眼副作用を下記のグラフに示します。