がん患者さんのこころのケア
小林秀正 (緩和ケア・心療内科医、非常勤)
当センターにおいて、「がん総合的診療チーム」が組織され、非常勤医の立場ですが、緩和ケア・心療内科を学んできた私がチームの一員として、仕事をしておりますのでご挨拶申し上げます。
長きにわたり日本のがん治療において、こころのケアは十分とは言えない状況でした。緩和ケアという考え方が少しずつ一般市民の皆さんに理解されるようになる中、厚生労働省は、『緩和ケアとは、病気に伴う、心と体の痛みを和らげること』という定義を示しました。こころのケアは、がんに限らず、すべての病気に悩む患者さんやご家族に提供されるものでなくてはいけません。ここでは、「がん患者さんのこころのケア」について述べたいと思います。
がん患者さんの体の痛みなどの苦痛を和らげるのは当然です。痛みの治療はこの20年で大きく進歩しました。しかし、こころの痛みについて、医療従事者が関心を持ち、対応していくことは、日本において十分とは言えない状況だと思います。がんではないかと心配になり検査を受けるため病院に足を運んだ時、検査を受けて結果を説明される時、不安や恐怖でいっぱいになることは想像できるでしょう。幸いにがんでなかったとなれば、大丈夫だと思いますが、がんの診断を受けたとしたら、その時からこころのケアは必要だと思いますし、病院としては、そのような意識を持って対応できる体制を作りたいものです。相談できるスタッフに話をするだけでもこころが軽くなることはよくあることです。
早期のがんの場合と残念ながら進行したがんの場合、本人やご家族の気持ちに違いがあるのは当然です。「治療方針について、説明を受けても頭が真っ白でなんだかわからない」というお話も以前勤めていた病院でよく伺いました。治療が進み、抗がん剤の副作用に悩むこともあるでしょう。治療が難しくなり、症状を軽くする治療が中心になることを説明された時、患者さんやご家族は「死」を強く意識することになります。
山鹿市民医療センターには、常勤の精神科医や臨床心理士はいませんが、今までも主治医やメディカルスタッフ全員で患者さんやご家族のこころのケアを行ってきました。「がん総合的診療チーム」では、こころのケアにさらに力を注ぐような体制にしました。私は、九州大学で心療内科を学びました。ホスピス・緩和ケア病棟の勤務でいろいろと経験しています。熊本中央病院緩和ケアチームでは、がん治療早期から終末期までの患者さんやご家族と長く関わってきました。週1回の勤務ですが、スタッフの皆さんとともに少しでも患者さんやご家族が落ち着いて治療を受けたり、人生を穏やかに過ごされるお手伝いをしたいと思っています。
どうぞよろしくお願いいたします。